私のバイト時代 (7) 

 土日の床洗いはウィークディと違ってチームを組んで仕事をした。床洗いは仕事の段取りが決まっている。週に1度、床を石鹸水で洗いワックスをかけて仕上げるのが目的である。
 
 この目的に向けて仕事の各段階が順を追って構成されていた。まず第一に出来るだけ広く床面積を確保しなければならない。床の上にある椅子やゴミ箱や書類の箱などを机に上にあげる。この作業は全員で場所を分担してやる。
 
 それが一通り終わると、今度は作業ごとに担当者が配置される。洗うべき床に石鹸水を撒く。これは原液を薄めるのだが、それでもこの液は強力で、この作業をする者は暑くても長靴を履いていた。私が後にこの作業をする時裸足でやったことがある。仕事が終わると妙に足がむず痒い。冷たい水で洗うとその時だけは治まったが痒みはなかなか抜けなかった。翌日には足の皮がところどころ日焼けの時のように剥けていた。
 
 その後に電動ポリッシャーで床を磨く。この担当が全作業中のかなめである。私も1年ほどやった後はこの担当になった。汚れを洗った液はかっぱきという大型のゴムべらであつめ、ちりとりですくいバケツに入れる。その後にモップで拭く係りが2人続く。荒拭きと仕上げ拭きである。
 
 汚れたモップはまだ洗っていない床に投げ出しておく。モップ洗いの担当が使用済みのモップを集めて、トイレにある洗い桶ですすぎ、堅くしぼって作業しているところまで運ぶのである。床がきれいになると、乾くまで待って、白いワックスを薄く塗る。乾いた後、もう一度ポリッシャーをかけて光沢をだす。これで全作業が終わり、後は現状復帰である。机にあげた椅子などを降ろして全行程が終わる。
 
 私が始めに担当したのは、モップ洗いであった。よく学校などにはモップを洗うための水を入れた四角い道具がある。その中でモップをすすぎ、丸いローラーで挟んで水を切る。しかしあれはプロの作業ではまったく役にたたない。モップを流水ですすぎ絞るときは手でモップの先を2つに分けて絞るのである。その時に、荒拭き、仕上げ拭き、ワックス用、と3種類の用途に合わせて絞り加減をかえないといけない。
 
 水を含んだモップは重く、これを10本ほど持ってトイレに運ぶのは結構難儀だった。私は後に椎間板ヘルニアになった。これはモップを15本ほど抱えて階段を下りたときに、腰をひねったのが原因である。作業はどんどん進む。休む間もなく、使用可能なモップを次々に作業場所に補給しなければならない。
 
 力を入れて絞るので腕は痺れてくる。石鹸の撒いている床の上を重いモップを抱えて歩くので妙に神経を使う。後から後から処理しなければいけないモップが追いかけてくる。流水で洗うから、胸から腹にかけて水浸しになる。追い立てられて、自分で仕事をコントロールできないので慣れるまでは辛かった。
 
 その作業が慣れた頃、かっぱき使いに移った。これはモップ洗いよりも楽だった。ただ滑らないように歩くのと、効率よく汚れた水を回収するのには技術が必要だった。
 
 その後で、モップを使って床拭きの担当になった。はじめは荒拭き、慣れてくると仕上げ拭きをやった。荒拭きではモップに石鹸水を吸い込むのが目的なので、床の上をなでていればいい。仕上げ拭きでは汚れをきちんと落とさなければいけないので、力の加え方、床のこすり方など、微妙に腰を使ってモップさばきを調節しなければならなかった。
 
 いかに最小の労力で最大の効果をあげるか。時間は短いほど良いが、共同作業なので、余裕を持って、他の人の作業状況に合わせられるのがベストである。最短時間に最小の労力で最大の効果を上げる、というのは受験問題を解くときも同様だが、受験には人に合わせる、という要素が欠けている。自分だけが問題を速く正確に解ければよいのである。
 
 98.10.4

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 あとがき:最近の仕事はマニュアル化が進んでやることははっきりしているがその意味がわからないことが多いように思われる。それは人間をダメにする。自分のやっていることの意味がわからないと心理的に消耗する。また工夫のしようがない。ただ時間を埋めているだけである。結果として効率も上がらない。

 先日NHKのドキュメンタリーを見た。ある工場で流れ作業の各パートを別々の人がやる方式をやめた。一人の人に始めから終わりまですべて作業を任せる。個人ブースを作って最終結果まで責任を持たせる。飛躍的に作業効率が上がったという。番組ではちゃんと時間を計ってデータを出していた。最後にそのプロジェクト成功のパーティがあり、女性の作業員が挨拶した。本人のやり甲斐も増したという。

 掃除のバイトでは結果まですべての行程を経験したので、どこに力を注ぎどこに手を抜くかわかったので、やっていて楽しかった。(2001.7.7)